綿のようにふわふわと柔らかい感触の歯ブラシが今、ドラッグストアやディスカウントストアで売れている。医薬品・日用品卸の「大木」が販売する濃密極細毛の歯ブラシ「モフらし」だ。 【写真】モフらしはモフモフとしたかわいいイメージを前面に打ち出している 一般的な歯ブラシの毛先は直径0.2ミリ、柔らかめとされる商品でも0.15ミリとされるなか、モフらしは圧倒的に細い0.08ミリの毛先を採用している。 価格は1本あたり税抜698円(提案参考価格)で、ほかの歯ブラシに比べると少し高いが、累計販売本数は177万本(1月時点)。昨年後半は1カ月だけで10万本売れた時期もあるほど好調だ。
高価格帯歯ブラシの売れ筋となったこの商品。ヒットの理由は何だったのか。商品展開の裏側を取材した。 ■「本当に売れるのか?」不安が残る中での発売 大木は万治元年(1658年)創業の老舗。滋養強壮の大衆薬の売り出しから始まった。現在は医薬品だけでなく、健康食品や日用品など、ドラッグストアや薬局向けの幅広いヘルスケア商品を扱う卸企業だ。昨年度の売上高は3323億円だった。 卸の知見を生かし、他社にない商品を企画して小売各社のプライベートブランド商品として提案したり、ヘルスケアに進出するメーカーを支援し、大木の自社ブランドとして販売を広げたりする独自の営業活動が強みだ。
新商品の企画が始まったのは2020年秋ごろ。大木はオーラルケアで、新たなオリジナル商品を模索していた。そうした中、東京・中野区の歯ブラシなどの開発メーカー、アマテラスの技術に着目し共同で企画したのが、「濃密極細毛」の歯ブラシだった。 当初から想定していたのは、歯茎が弱くなった高齢者の需要だ。筆のような滑らかさで歯茎に負担をかけずに磨けることや、歯茎のマッサージ効果があると見込まれ、加齢で歯茎が弱くなった人、歯周病に悩む人などに受け入れられるのではと考えていた。
ただし、商品について心配する声もあった。企画や販売を手がけた快適生活用品事業部の奥野好則事業部長は「正直、発売前から『これは売れるのか?』という声はあった」と当時を振り返る。 歯ブラシは大手メーカーの定番ブランドの人気が強い商品カテゴリーだ。また、低価格のプライベートブランド商品も多く流通しているため、ブランド力の面でも、価格戦略の面でも新規参入が難しい。 奥野部長は「歯ブラシは本当に難しい商品カテゴリーで、こちらはほかと比べても値段が高い。商品に自信はあったが、新規参入が難しいといわれる市場に本当に入っていけるかどうかはチャレンジだった」と語る。
■消費者の意外な反応、柔軟に商品戦略を転換 しかし、2021年4月に発売すると、小売店のバイヤーや消費者などから予想外の評価が大木に寄せられるようになる。 特に意外だったのが、大手ディスカウントストアで販売が伸びたことだ。 歯ブラシを取り扱うコーナーでは「ふわふわ」や「やさしい」といったポップアップとともに商品が陳列されるようになり、想定外の若者層から人気を呼んだ。さらに「この歯ブラシで磨くと子どもが嫌がらない」といった意外な声も寄せられた。
そこで、販売から2年後の2023年に歯ブラシの先端部分を小さくしたスーパーコンパクトを発売。この商品も、税抜698円(提案参考価格)と高めだが、発売から約半年後には月に3000〜4000本程度と安定した販売本数を記録するようになる。 口コミやSNSの評価によって、じわじわと人気が広がり、発売から3年後の2024年3月にはシリーズ累計販売が100万本を突破した。 さらに、昨年4月には商品名を「濃密極細毛歯ブラシ」から「モフらし」に変更。ふわふわとした毛並みのねこのキャラクターをパッケージに登場させてイメージを一新したところ、2024年4月から今年1月までの10カ月で約74万本が売れ、一気に火がついた。
好調な販売は同じ商品を再び購入するリピート率の高さにも表れている。 約6000万人規模の購買データを扱うTrue Dataのサイト「ウレコン」によると、「モフらし」のレギュラータイプのリピート率は7.97%、コンパクトタイプは11.07%(2025年2月24日時点)。 歯ブラシの平均リピート率が6.5%程度とされる中で平均よりも高い数値となっており、着実にユーザーの支持を集めている状況だ。 ■競争激化する濃密極細毛歯ブラシ、今後の勝算は?
一方、最近では「モフらし」を追う他社の動きも目立つ。都内のディスカウントストアの歯ブラシ売り場を見ると、直径0.1ミリの極細毛を採用した商品や「モフらし」よりも多い3万5000本の毛を密集させた商品などが販売され、中には品切れになっている商品もあった。 こうした動きもある中で、大木は時短につながる電動歯ブラシ型を投入。毛先を固めにしたタイプも新たに販売し、ラインナップを増やして対抗しようとしている。
「SNSでの人気は移り変わりがとても激しく、ヒットにつながるのも早いし、落ちていくのも早い。そうした中でも隠れた需要をしっかりととらえていくことが何よりも重要」(奥野部長) モフらしのヒットは、想定していなかった潜在的なニーズをつかんだことが大きい。しかし、それだけではなく、消費者の声を聞き、子ども向け商品を開発したこと、親しみのある商品名に変更するなど、柔軟な戦略を進めたことが、長期で商品を成長させたポイントだった。
濃密極細毛歯ブラシというジャンルを切り開いたうえで、さらにどんな機能や便利さを追加していくのか。消費者の声に耳を傾け、より使いやすい商品を開発していく取り組みはこれからも続きそうだ。
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