無名の中国企業が、いきなり「世界最高のAI」と互角のAIを世に放った。今後のアメリカの出方しだいで、世界経済の景色は一変しかねない。
前編記事【中国最強AI・DeepSeek、「習近平」と入力すると「沈黙」…日本人が心置きなく使えない「政治的な理由」】より続く。
DeepSeekは本当に「安価」なのか
では、本当にDeepSeekは、中国が生んだAI界の「麒麟児」なのだろうか。専門家のあいだには、慎重な意見が多い。AIエンジニアで、昨年の東京都知事選に出馬した安野貴博氏はこう指摘する。
「Meta(旧フェイスブック)ですらOpenAIのo1と同等のAIは作れないのに、今回DeepSeekが殴り込みをかけたことは本当にすごい。
しかし一部で言われているような、『スプートニク・ショック』('57年にソ連がアメリカに先立って初の人工衛星を打ち上げたこと)なみの影響をもたらすという見方は、行きすぎだと思います。
DeepSeek自身が公表しているベンチマーク結果でも、R1は数学に関してはo1を上回っていますが、プログラミングや日本語を含む多言語対応ではo1を超えてはいません。
また、『安く作った』という同社の主張についても、検証する手段がないうえ、創業者の梁氏は以前ヘッジファンドを率いていたときに大量のGPUを購入していて、その費用を算定しているかどうかも分かりません。
無料で使えるからといって、開発や運用にかかるコストをDeepSeekがどこまで抑えられているのかに関しては、私は懐疑的です」
どうやって「賢くなった」のか
加えて浮上しているのは、彼らが「蒸留」という手法を使っているのではないか、という疑惑だ。
そもそも生成AIは、膨大な数のデータと質問を読み込んで試行錯誤を重ね、「正解の確率がより高い回答」を選ぶことを繰り返し、賢くなっていく。
この「正解の確率を見極める」ためのノウハウを、専門的には「重みづけ」と言う。正確な重みづけには超高速かつ大量の計算が欠かせないため、それができる頭脳、すなわちGPUがたくさん必要になるわけだ。
OpenAIなど、ゼロから生成AIを開発してきた企業は、それぞれ重みづけの「秘伝のタレ」を持っている。しかし実は、それらのAIが導き出した回答を別のAIに学習させると、あたかもいちばん美味しい「上澄み」だけをかすめ取るように、重みづけを模倣できてしまうのだ。これが「蒸留」である。
「OpenAIとマイクロソフトは1月末、『DeepSeekがOpenAIの製品を蒸留した証拠がある』と告発しました。OpenAIは規約で蒸留を禁じていますが、DeepSeekのR1がこれほど速く西側のAI研究所のフロンティアに追いついた秘密のひとつに、この蒸留がある可能性は高いと思われます」(前出・bioshok氏)
つまりDeepSeekの優れた能力は、アメリカ製AIという「巨人」の肩の上に、黙って乗ることで達成された疑いがぬぐえないのである。
「蒸留を行えば、回答精度を高めるために必要な計算が大幅に省けて、GPUを節約することができます。アメリカから見れば、いくら中国へのGPUや半導体の輸出を止めても、アメリカ製AIを蒸留されてしまえば意味がないのです。
サム・アルトマンCEOをはじめ、OpenAIの首脳陣は昨年以降『AIは今後、安全保障の問題になっていく』『中国に負けてはならない』と盛んに主張し始め、バイデン前政権、さらにトランプ政権へのロビイングを猛烈に進めています。DeepSeekの台頭は、アメリカ政府も本気で危機感を抱き、『目覚める』きっかけになるかもしれません」(同前)
「超知能」をめぐる駆け引きが始まる
アメリカ政府やアメリカのメガテックが、これほどまでにAI開発に血眼になるのは、単にカネ儲けのためだけではない。AI、特に人間の知性を超えるAGI(汎用人工知能)を最初に手にする国こそが、世界の絶対的覇権を握ると本気で信じ始めたからである。
アルトマン氏は昨年来、自身のブログでたびたび「AGIは2027年までに完成する」「その後、人類は一変する」と書き、さらには「AGIを初めて手にするのは、自由主義国家でなければならない」とも公言するようになった。すでに彼は中国とのAI開発競争を、事実上の「戦争」だと考えているのだ。
「DeepSeekの登場でAIは安くなる、先端半導体もいらなくなるという予測さえ出ていますが、これから起きることは、おそらくその反対です。
OpenAIにとって、いま一般公開しているAIはあくまで通過点でしかなく、彼らは完全に人間を超える『超知能』の実現を最終目的に据えています。そのためには、さらにケタ違いの数のGPUをアメリカが独占する必要があり、機密も厳重に守らなければなりません。
そうなれば米中、ひいては東西の両陣営が、自国のAIや半導体を相手側に使わせない『AIブロック経済』への移行もありえる。テック企業間の競争が、世界を巻き込む争いにエスカレートするおそれは、今後ますます高まるでしょう」(同前)
すでに、新時代の「冷戦」は幕を開けたのかもしれない。
Advertisement
Advertisement



Advertisement
Advertisement






Advertisement
Advertisement











Advertisement




















Advertisement