後半はインサイドゲームに切り替え、17点差を追い上げた白鷗大学
残り1.6秒から2度の逆転劇の末、拓殖大学が83-82で山梨学院大学を下した3位決定戦。両者のあきらめない戦いを終え、お腹は満たされていた。しかし素晴らしい逆転劇も、これからはじまるクライマックスの前菜に過ぎなかった。第76回全日本大学バスケットボール選手権大会(インカレ)女子決勝は、歴史に残る名勝負となる。誰もが未体験となる4度のオーバータイムを繰り広げ、約3時間に及ぶ長い長い戦い。メインディッシュを通り越し、食べ放題のような満足感を味わえた大学女子バスケFINAL4。百聞は一見にしかず。ぜひとも、前菜からバスケットLIVEの見逃し配信で堪能していただきたい。 女子決勝は第3クォーター終了間際、東京医療保健大学 #11 五十嵐羽琉がブザービーターで3点を加え、58-41とする。決勝は技術以上に「まずは気持ち。エネルギーが勝負を分ける」と東京医療保健大学の恩塚亨監督は選手たちを鼓舞する。4年生の #20 島村きららを交代で下げ、「お前がやるんだ」と目覚めさせた。「自分にとっても4年生としても最後の試合。結果的に勝っても負けたとしてもやり切れたと思える試合をしよう、と最初から決めていたのですが、そこが揺らいでしまっていました。あの場面で恩塚さんに声をかけてもらったことで、もう1回その揺らいでいた気持ちを取り戻すことができ、自分らしいプレーができました」と島村は集中し、すぐさま第3クォーターのコートに戻ると点差を広げていった。 劣勢を強いられた白鷗大学の佐藤智信監督は、「恩塚君がきっちりアジャストしてきて、人とボールを動かし続けるフローオフェンスを、パッパッと切ってきたことでなかなかリズムに乗れなかった」という前半の戦いだった。「後半はインサイドゲームに切り替え、とにかくペイントの中にボールを放り込んだことでリズムが出てきた」と相手を凌駕すべくアジャストする。第4クォーターは #13 オコンクウォ スーザン アマカの得点から連続13点で追いかける。残り4分11秒、#20 舘山萌菜が3ポイントシュートを決め、60-60と試合を振り出しに戻した。 「インサイドへパスを放り込み、ダブルチームが来たところでズレを作ったことでスリーポイントが入りはじめ、ようやくリズムに乗れた。それによってアマカも生きるようになった組み立てだったが、ガマンをしてよく17点差から追いついてくれました」(佐藤監督) 東京医療保健大学はファウルトラブルによりベンチに下がっていた #91 大脇晴を戻すと、気迫のこもったプレーで奮起する。残り少ない時間の中で11点を挙げ、リードを奪い返した。ふたたび手を伸ばして背中をつかもうともがく白鷗大学は #75 佐藤多伽子、#23 高田栞里の4年生たちが3ポイントシュートを決め、残り12.2秒で2点差に迫る。ファウルゲームでもらったフリースローを東京医療保健大学が決め切れない。残り8.2秒、同点または逆転を目指す白鷗大学が最後のオフェンスへ向かおうとした瞬間、2年生ポイントガードの #5 池田凜が痛恨のターンオーバーをしてしまった。尋常ではないほど緊迫したラストプレーを池田はこう振り返る。
「この試合は最初からあまり調子が良くなく、途中で点差も離れてしまって、負けるのではないか…という思いがちょっと頭を過っていました。でも、第4クォーターの自分が出ていない間に先輩や仲間たちががんばって追いついて、(ファウルゲームによって)舘山さんが退場してしまい、そこでコートに戻ったときはもう点を取るしかないと思っていました。最後の場面もたまたまスティールでき、本当にすっごい緊張したんですけどレイアップを決めることができて、延長につなげられて良かったです」 ターンオーバーも含めて同点を演出するためのデザインだったのではないか。どこか夢を見ているようなとても長く感じた3.8秒間。ひとつ前のミスを帳消しにする池田がスティールから速攻を決め、73-73。40分間の戦いとともに、ドラマの前編が終わった。
両チームとも3人がファウルアウトする総力戦
延長がはじまる前、白鷗大学は舘山がファウルアウト。東京医療保健大学は足を痛めた1年生エースの #5 絈野夏海もベンチで仲間たちの勝利を祈っていた。さらに登場人物が減っていく。6点リードした東京医療保健大学だったが、#3 イベ エスター チカンソ、大脇、島村と主力が次々とファウルアウトでコートを去る。白鷗大学が息を吹き返し、リバウンドをねじ込んだアマカの得点で83-83、2度目の延長へ突入した。 白鷗大学も高田、3度目の延長ではアマカも5つのファウルで退場し、4年生が抜けて行く。どちらも総力戦となる気力の戦い。靴紐を結び直した絈野が、志願してコートに戻ったが約2分でふたたび退く。いつ集中が切れてもおかしくない。「ちょっと何とも言えないけど…」と佐藤監督も苦笑いする池田の3ポイントシュートが、3度目の延長を救った。経験したことのない長い延長が続き、「気持ち的に結構しんどくて、自分はスリーポイントが特に得意でもないのにパスが回ってきて、でもオーバータイムの間だけはシュート感覚が良かったのでもう打つしかない、先輩からもらったパスは全部打とうと思っていました」と気持ちで決め切り、98-98。3度目の延長でも決着はつかず、4度目の5分間がはじまった。 どちらもエネルギーが枯渇する中での削り合いは、ミスしても致し方ない。白鷗大学は池田と #11 佐々木凜の2年生ツーガード、そして #41 アダム アフォディヤと #77 東小姫の1年生が最後の場面を託された。唯一4年生の佐藤は、「他の4年生たちの分もやらなければいけないという思いがありました。ベンチやスタンドから声をかけてくれ、目を合わせてくれて『できるぞ』と気持ちを与えてくれていました」と仲間たちが背中を押し、一緒に戦っていた。コート上では誰よりも声を出し、フィナーレを盛り上げる。長い長い戦いの結末について、両指揮官が振り返る。 「いくつか理由はあると思うが、最後にターンオーバーから同点にされたことで勝ちを取りこぼしてしまった。その状況を設定したトレーニングを徹底し切れていなかったことが敗因であり、私の責任」(恩塚監督) 「最後の最後に佐々木が飛び込んでバスケットカウントを決め、勝負を決めた。その嗅覚は経験してきて学んできたのかな」(佐藤監督) 111-103。ディフェンスディングチャンピオンの白鷗大学が2連覇を達成した。
切磋琢磨するライバル対決が見据える明るい未来
10月27日、関東大学女子リーグ戦の最終戦での同じカードは、30点差をつけて白鷗大学が勝利。「たぶん、そこからうちへの対策をしてきたのではないか。だから、他の試合で苦労したんだと思います」と佐藤監督は敵将の意図を読む。インカレでは初戦の大阪人間科学大学から劣勢に立たされ続け、東京医療保健大学はいつ負けてもおかしくはない試合内容だった。 恩塚監督はパリオリンピック後に女子日本代表ヘッドコーチ退任、10月から古巣の東京医療保健大学へ復帰。リーグ戦ではスタンドで見守っていたが、「プレーの強度が求めているものとは違ったので、練習の内容や組み合わせを変えた」とテコ入れし、本格的に練習に参加した当初は選手たちも音を上げるほど追い込んだ。インカレまで「逆算した限られた時間の中で何ができるか。それだけを考えて練習してきた」と恩塚監督はなりふり構わず、1ヶ月余りの練習では白鷗大学へのリベンジに懸けてきた。30点差で負けていた相手に対し、変わらぬメンバーで4度の延長まで苦しめたのは成長の証でもある。「自分たちの可能性に蓋をすることなく信じて戦った選手たちは大きな誇りであり、喜びを感じています」と労うとともに、「勝たせてあげたかった」と悔やむ。 6年連続同じ顔合わせとなったインカレ決勝であり、毎年のように激戦を繰り広げるライバル対決に佐藤監督は明るい希望を感じていた。 「ありがたいことに恩塚君は良いバスケをしてくるので、こちらとしてもいろいろ考えなければいけない。そうすることでレベルがどんどん上がって行く。それは我々だけではなく、他のチームもいろんなことを考えるので、彼が戻ってきたことでレベルアップし、大学女子バスケ界全体が良い流れになると考えています。選手たちは本当に一生懸命に打ち込み、ここから日本を強くする代表選手が出てくると思っています」 激闘を終えた4年生の中には、これからWリーグへ向かう選手も多い。白鷗大学のアマカは、昨年ともに日本一に輝いた三浦舞華と田中平和がいるトヨタ自動車アンテロープスへ進む。舘山も日立ハイテク クーガーズの即戦力として期待される。佐藤はプレステージ・インターナショナル アランマーレ、高田は山梨クィーンビーズへ進み、優勝経験を引っ提げてWリーグ プレミアへの昇格を目指す。東京医療保健大学の #21 野坂葵は新潟アルビレックスBBラビッツへ、#3 イベ エスター チカンソと #52 松本新湖は東京羽田ヴィッキーズでもチームメイトとなる。日本を強くする大学出身選手たちの今後の活躍もぜひWリーグで追いかけていただきたい。
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