11月下旬から12月19日まで沖縄で約1カ月間行われているジャパンウィンターリーグ(JWL)。3回目の今季は、選手の顔ぶれが大きく変わった。NPBに在籍する選手が初めて参加したのだ。 【写真】「す、スコアボードがカタカナだらけ…」外国人選手が沖縄に大挙…ペットボトルの分別レクチャー、戦力外になった投手も参加の“謎ウィンターリーグ”の舞台裏を全部見る 西武、楽天、DeNAとNPB球団が選手を派遣し、ドラフトや育成ドラフトで獲得した若手選手がやってきた。また、今オフに広島を戦力外になった内間拓馬、坂田怜の2選手も参加している。 中信兄弟など台湾プロ野球(CPBL)や韓国プロ野球(KBO)、トヨタやHonda、パナソニックなどの社会人野球強豪、国内独立リーグからも選手がやってきている。加えて興味深い動きを見せたのは中国で、U23の代表チームを丸ごと派遣した。2028年のロサンゼルス五輪では、野球が再び正式競技になる。これに向けてチームを強化したい中国は、その一環としてJWLに参加している。
「日本野球を学べる」外国人選手が大挙
さらに驚くのが、アメリカ圏、ヨーロッパ圏から参加する外国人だ。昨年も多くの選手がいたが、今季はより一層増えた。 それはなぜか。 昨年の参加者から日本やアジアの独立リーグに入団が決まった選手が出たことは要因の一つだろう。しかしそれ以上に彼らにとっては「日本野球を学べる」ことが大きいという。 「海外のウィンターリーグでは、有望選手じゃないと、指導者は声もかけません。でも……」 JWL各チームの「監督」に相当するゲームコーディネーターの1人は、このように語っている。 「JWLでは選手全員のフィジカルデータを計測しますし、試合でのパフォーマンスもデータにして選手に伝えます。今年もドライブラインの指導者や日本のトレーナー、データアナリストが参加して、選手に投球、打撃のデータやフォームなどについて、親切に指導しています。僕は若いころにアメリカのウィンターリーグに行きましたが、こんなに至れり尽くせりのリーグがあるのなら、海外なんて行かなくてもいいと思いますよ」
外国人選手に「ペットボトルの分別処理」を説明
参加費用は16万5000円~55万円と決して安くはないだが――円安のご時世でもあり、外国人選手はそれほど高額とは感じなかったようだ。一方でプロが参加したことによって、大学生、高校はプロアマ規定に抵触するので参加できなくなった側面もある。 今年は13カ国143人が参加(昨年は101人)。彼らは実力別にアドバンス、トライアウトの2つのリーグに振り分けられ、各3チームでのリーグ戦を戦う(交流戦もある)。 開幕前日の11月23日には、リーグ、チームに選手を振り分けるために、走力、跳躍力、打撃、投球などの基礎データを計測するフィジカルテストが行われた。 朝、コザしんきんスタジアムに集まった選手の多くは外国人。ゲームコーディネーターを統括する坂梨広幸氏は野球オーストリア代表監督である。選手に一通り説明をした後「日本でのペットボトルの分別処理の仕方」を、実際にペットボトルのキャップを取り、シュリンクラベルをはがして説明した。このきめ細かさが日本流だと、妙に感心した。 今年のJWLはDAZNが全試合、無料で中継放送している。投手の球速、回転数、変化量、打者の打球速度、角度が表示され、彼らのパフォーマンスはオンタイムでデータ化される。 11月24日の開会式後に行われた開幕戦は、前広島・内間拓馬が5回無失点の好投を見せて、EISAが中国代表に勝利した。 「すごくレベル、上がりましたよね!」 JWLの代表・鷲崎一誠氏の声が弾んでいる。確かに守備の俊敏さ、肩の良さ。日本選手はもちろんだが、中国代表のレベルの高さにも舌を巻く。スコアボードにはカタカナ名前ばかりが並ぶが、外国人選手のレベルは高い。そしてそれ以上に「学ぼう」という前向きの姿勢が見て取れる。
西武の関係者に派遣の意図を聞いてみると
では、初参加となったプロ勢はどう感じているのか。 埼玉西武ライオンズはJWLに、いずれも育成の谷口朝陽、仲三河優太、三浦大輝の3選手を派遣している。 「3人はケガをしていたり、身体は丈夫でも出場機会がなかった選手です。今日は三浦も投げましたが、これで3人とも全員実戦が経験できたのは良かったと思います」 視察に来ていたライオンズの眞山龍ファーム育成ディレクターは、派遣の意図についてこう明かす。 「仲三河は11月22日にこちらに入って、2日ほど十分な練習ができなかったので、初戦ではアジャストできない部分があったのですが、今日は室内練習場でしっかり打ち込んだことで、彼らしい積極的な打撃が見られたと思います。外国の選手がたくさん来ていますが、スイングは本当に強くて、仲三河が彼らとそん色ないバッティングができているのはいいかな、と思います。 それから谷口は、ピッチャーから野手に転向したばかりです。今年はケガもあってあまり試合に出ていなかったので、まずはこのリーグで完走するというのが目標だと思います。3人それぞれにテーマがあるのですが、大事なことは試合に出続けることだと思います」
社会人強豪のコーチが「刺激的」と語るワケ
社会人野球強豪のHonda硬式野球部からは金城飛龍、右田稜真、上ノ山倫太朗の3人の外野手が参加している。同行している西銘生悟コーチにも話を聞いた。 西銘コーチは2008年春、東浜巨(現ソフトバンク)を擁して沖縄尚学高が2回目の優勝を飾った際のキャプテン。中央大を経てHondaで内野手として活躍し、今年からHondaのコーチに就任した。 「チームは前から参加していますが、僕は初めて来て、いい環境だなと思いました。普段は関東にいて、寒くなる中で野球をしていましたから、1日中暖かいところで野球ができるのはいいですね。派遣してくれた会社には感謝です。 今回来ているのは若くて、今から鍛えないといけない選手です。毎日のように試合があって練習もするのはフィジカル面と技術面、両方を高められていいと思います。そして、いろんな立場の選手がチャンスは今しかないといった感じで『野球をしたい』と自分を売り込む姿勢は刺激的ですね。自分たちも成長しないといけないですね」
斉藤和巳も「日本野球が注目されているのかな」
JWLのアンバサダーを務めている人物には、野球ファンがよく知る人物がいる。福岡ソフトバンクホークスの斉藤和巳四軍監督(来季から三軍監督)である。 「選手のレベルはすごく上がっていますね。今年はNPBからも派遣された選手がいますが、JWLがNPBからも認められるようになったということでしょう」 斎藤四軍監督から見て、3年目のJWLはどのように映っているか。 「NPBから来ている選手の中には、リハビリ中の選手もいるようですが、普通ならそういう選手は年が明けないと始動できないんですが、この期間にもう実戦でプレーできるのは大きいですね。しかも、それが海外のウィンターリーグではなく、国内だというのは大きいんじゃないでしょうか。 データ計測分野はさらに充実しているようですが、参加している選手が、どういうカテゴリーに行くか、行けるのかを考えるときに、数字は一番わかりやすい部分です。選手の指標を示す、アピールするという意味で、いいことだと思います。 今年はさらに外国人選手が多いですが、日本野球が注目されているのかなという感じがします。海外の選手が学ぼうという意識を持って参加してくれることで、日本選手にとっても良い場所になっています。いいリーグになってきているな、という感じがしますね」 筆者は1年目から取材しているが――3年目にして、環境も、マネジメントも、選手のレベルもアップして、ジャパンウィンターリーグは、新たなフェーズにステップアップしたという思いを強くした。 〈プロ野球オフシーズン特集:つづく〉
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