今年のノーベル文学賞に決まった韓国の作家、ハン・ガンさんの授賞式が10日にスウェーデンで行われるのを前に、日本でも韓国文学の人気が続いている。11月は、東京・神保町で韓国文学のブックフェア「K―BOOKフェスティバル」が開かれた。若手SF作家のキム・チョヨプさん(31)も来日した。(小杉千尋)
『派遣者たち』キム・チョヨプさん
共存 居心地の悪さ必然
地球が正体不明の菌類「氾濫体」に侵され、人類が地下都市に逃げ込んだ世界。地上に憧れる少女・テリンが、氾濫体の調査や研究を行う「派遣者」を目指して試練に挑む。キムさんの、SF長編『派遣者たち』(カン・バンファ訳、早川書房)が11月に出版されたばかりだ。
「『共存』というと、施し合うといった美しい話が語られることが多い。私の考える共存は、お互いが侵略しあったり、支配しあったりして、居心地の悪さを感じるものなんです」
菌類に関する本を読み込み、その世界に魅了されたことが執筆のきっかけだという。人は、人以外の存在と共存できるのか。美しい地球を取り戻すため、地上を探索するテリンの目を通して、人間と非人間との共存のあり方を考えた。
「人も自然も、繁栄するために何かを失わなければならない。居心地の悪さを見なかったり、ないことにしたりすることで、抑圧や差別が生まれる。居心地の悪さは、共存には欠かせないものだと思う」と話す。
理系の出身で、大学院では人体の構造やウイルス感染の仕組みなどを研究していた。在学中の2017年に韓国の文学賞を受賞し、作家デビュー。初の短編集『わたしたちが光の速さで進めないなら』は、韓国国内で40万部を突破するベストセラーとなった。
単著の邦訳は『派遣者たち』で4冊目となる。宇宙や未来を舞台に、SFや科学技術の要素を取り入れながら、その世界で懸命に生きる人々を温かな筆致で描いた作品で人気を集める。
自身は、「派遣者」を目指すことはないという。「私の描く主人公は、いつも、私より積極的で遠いところまで行ける人たち。うらやましいし、憧れの対象でもあります」
11月24日のK―BOOKフェスティバルでは、『フィフティ・ピープル』などで知られる作家のチョン・セランさんと対談した。「私の小説を読んだ後、現実から逃げ出すのではなく、この世界はよりよい場所に変えられるのだ、という勇気を受け取ってほしい」と語った。
著者の美しく繊細な言葉やイメージが味わえる『すべての、白いものたちの』(斎藤真理子訳)は、版元の河出書房新社によると、受賞決定後に文庫が9万部、単行本は1万部を重版し、合わせて累計約12万部となった。小説『回復する人間』(同)や『別れを告げない』(同)を出版する白水社も、「注文がひっきりなしに続き、増刷で追い掛ける状況」だという。
今回の受賞について、作家の平野啓一郎さんは、「作品の質と最近の海外の評価の高まりを考えれば、取るのは時間の問題だと思っていた。こんなに早くとは思っていなかったけれど、受賞にふさわしい人が選ばれたと思う」と語る。
そのうえで、文学性について「ハン・ガンさんは散文や詩を書いているし、傷ついた人間に対する描き方が繊細で詩的。物語の構成も独創的。韓国の民主化闘争のトラウマという、日本の小説家が持ち得なかった深刻な主題があり、後の世代として、それと正面から向き合っている」と評価する。
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