10月27日に行われた衆議院議員総選挙で、自民党・公明党の与党は、解散前議席から大きく議席数を減らして過半数を割り込んだ。本稿を書いている時点で、自民党・公明党が少数与党として政権を維持するのか、過半数を回復するような新たな連立を形成できるのか、はたまた野党が結集して連立政権を樹立するのかはわかっていない。しかし、どのような選択がされても、政権基盤は脆弱であり、来年夏に予定されている参議院議員選挙に向けて事態は流動的である。 衆院選で与野党攻防の焦点となったのは自民党内の政治資金の不記載(いわゆる「裏金」)の問題であった。野党は自民党内の処分は甘すぎる、再発防止の覚悟もない、などとして厳しく批判した。石破政権は、すでに裏金議員には、問題の軽重に応じて処分を行っているとしていたが、批判の高まりを受けて自民党の公認を出さない、比例への重複立候補を認めないなどの対策を打ったが、世論を納得させるものにはならなかった。 さらに選挙期間中には、非公認の候補が支部長をつとめる支部に対して2000万円の政治資金を支給したことがあきらかになり、まったく反省がない、との印象を強めることとなった。これが与党敗北の最大の原因である。 今回の衆院選で残念だったのは、経済政策の討論・議論はほとんどなかったことである。自民党・公明党の与党と、最大野党である立憲民主党の間での経済政策論争は皆無であった。 経済政策に関して石破首相は、地方創生を訴えて地方の活性化こそ日本全体の経済成長につながるとしたが、具体策は聞かれなかった。2014年に地方創生担当大臣が創設され、石破氏が初代の大臣となった。これまで、過疎の問題についてはさまざまな対策は取られてきたものの、これといった成功の処方箋がつくられたわけではない。 一部の市町村が子育て世代を積極的に誘致するという政策で成功を収めているものの、全国的な広がりのある政策とはなっていない。人口の減少は、市町村の税収を低下させ、交通や病院、介護などのインフラの維持を難しくする。それがさらに産業立地を難しくさせ、人口の減少、特に若者世代の流出につながる。従って、今回は違うという政策を打ち出すことが必要だ。
そもそも大規模補正が必要なほど実態経済は悪いのか?
立憲民主党の野田代表は、分厚い中間層を作ると訴えていたが、これも具体的にどのようにしてそれを達成するのかの具体策は聞かれなかった。国民民主党は、社会保障保険料負担の軽減も含めて「手取りを増やす」という具体策を打ち出していたのが注目される。その財源をどうするのかについての議論はなかったが、例えばGPIFの目標を上回る超過リターンの活用まで踏み込んでいたら政策としては整合性のあるものになったであろう。 与野党ともに、「物価高対策」を掲げていた。エネルギー補助金の継続などは石破政権からも提案されていた。しかし、石油元売りへのガソリン価格低減への補助金や電力会社への電力料金引き下げへの補助金は、経済政策的に考えると愚策である。車に頼らざるをえない世帯への支援、家計の電気代高騰の不満をかわすための電力料金高騰の緩和が目的であれば、世帯所得に応じた所得支援(負の所得税)が、目的を達するためにいちばん効率的な手段となる。 エネルギー価格の上昇は、化石燃料から再生エネルギーへの転換を促すためのシグナル、また脱化石燃料のための技術革新のインセンティブにもなるので、それ自体を否定して、2022年1月から累積で7兆円もの補助金で価格を下げるというのは愚策であった。 経済対策として補正予算を組むと石破首相は明言しているが、これから議論を詰めていく必要がある。補正予算の使途は何なのか? そもそも大規模補正が必要なほど実態経済(総需要)は悪いのか? むしろイノベーションが起きていない、生産性が上がっていない(総供給問題)のほうが問題なのではないか? 財源はどうするのか、また国債発行に頼るのか、等を議論していくことが必要だ。これらが、衆院選の争点にならなかったのが残念だ。 伊藤隆敏◎コロンビア大学教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D.取得)。1991年一橋大学教授、2002~14年東京大学教授。近著に、『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。
Advertisement
Advertisement



Advertisement
Advertisement






Advertisement
Advertisement











Advertisement




















Advertisement