首都圏を中心に頻発する「闇バイト」事件。犯人を逮捕しても事件報道は止まず、事態は深刻化している。凶悪犯罪を組織する黒幕はどのような手口を使っているのか。気鋭のジャーナリストが迫る。 【マンガ】外国人ドライバーが岡山県の道路で「日本やばい」と驚愕したワケ 取材/文・片岡亮
指示役の上に黒幕がいる
「闇バイト」事件が大きな局面を迎えている。 警視庁は11月19日、フィリピンを拠点とする犯罪組織『JPドラゴン』の幹部・小山智広容疑者(50歳)を逮捕した。小山容疑者は、組織の実質的なナンバー3を務めていたとされる。 同組織は、「匿名・流動型犯罪グループ」(通称トクリュウ)で、昨年の1月までに発生した広域強盗事件「ルフィ事件」を首謀した。JPドラゴンはルフィ事件だけでなく、他の闇バイトも同様に指示していた可能性があり、事件解決の糸口になると見られている。 首都圏を中心に相次ぐ「闇バイト」事件。11月14日時点でその数は20件を超える。このうち16件で男女41人が逮捕されており、その中には高校生といった若者も含まれている。強盗などの凶悪犯罪が頻発する事態を重く見た警察は体制を強化しているが、勢いは一向におさまらない。逮捕しても新たな事件が後を絶たないのは、本当の「黒幕」に捜査の手が及んでいなかったからだ。 JPドラゴンの犯罪に詳しいマニラ・モリオネス警察署の元捜査官ジョセフ・ガルシア氏が言う。 「JPドラゴンの“JP”は日本のインターネットのドメイン名で、ネットを駆使した犯罪組織の意味を持っています。実行犯に指示を送っていた今村磨人らルフィグループを取りまとめていたのがJPドラゴン。日本では、彼らこそが闇バイト事件の黒幕であるとする報道も多いですが、実態はそうではない。JPドラゴンのさらに上部組織が存在する可能性があるのです」 つまり、真の黒幕を闇バイトの「発注元」とするならば、JPドラゴンは一次下請け、指示役をまとめていたルフィグループが二次、実行犯たちが三次という構図になるわけだ。
全容解明を阻む「匿名性」
だからこそ、JPドラゴンの逮捕が全容解明につながると期待されているが、事はそう単純にはいかない。 「実行役」を逮捕し、指示を受けたメッセージの痕跡を分析するだけでは組織のトップを割り出すことは難しいとされる。それはなぜなのか。彼らが高度な暗号化技術を用いて互いに連絡を取っていることに大きな理由がある。こうした犯行手口がトクリュウや闇バイトに見られる特徴の一つで、彼らが用いるのは「ダークウェブ」と呼ばれる、使用者の匿名性が高い通信領域だという。 事情を良く知るのは、アイルランド出身のオルネク氏(仮名)。過去に「ダークウェブ」史上最大規模の売買サイトと呼ばれた「シルクロード」を利用し、武器に関するITプログラムの販売で荒稼ぎしていたというオルネク氏と筆者は、ダークウェブ上で知り合った。 「ダークウェブとは、通常のインターネット検索ではアクセスできない通信領域のことだ。Tor(トーア)と呼ばれる閲覧用のソフトウェアを使い、特定のURLを入力することでのみ、ダークウェブ上のサイトにアクセスできる。 黒幕はダークウェブを使い、闇バイト犯罪を裏で操っている。その方法は様々だ。たとえば、URLが比較的有名なダークウェブ上のサイトで募集をかけ、応募してきた人物にやはりダークウェブ上のメッセージツールで犯行の指示マニュアルを提示する。 他にもXなどのSNSで集めた人たちをテレグラムという秘匿性の高い通信アプリへ誘導、さらにそこで選別した少数の人をダークウェブへと連れていき、犯罪の手法や指示マニュアルを伝えることもある。 それだけ、ダークウェブの匿名性は高い。ダークウェブ上のサイトには複雑な通信経路でアクセスするので、アクセスした人の情報やアクセスしたサイトの情報を隠すことができる。 指示役と実行役がやり取りを行うテレグラムなどのセキュリティ性の高いメッセージツールもアクセスの痕跡は残る。しかし、ダークウェブで犯行マニュアルを渡すだけの黒幕の正体を明らかにするのは難しい」(オルネク氏)
黒幕は素性を明かさない
JPドラゴンは殺人すらいとわない凶悪犯罪集団として知られている。そんなJPドラゴンが、ダークウェブ上で指示を与えられ、それに従うのはなぜか。 オルネク氏が続ける。 「JPドラゴンのような犯罪集団は利害関係のみで黒幕の言うことを聞いている。ダークウェブでは、そこでしか入手できな“闇リスト”なるものが売買されている。このリストには強盗や詐欺のターゲットとなる人々の情報が入っている。JPドラゴンにとっても、それらの情報は貴重。だから、リストを継続して与えてくれる黒幕に従わざるを得ないというわけだ。 また、金銭の受け渡しもダークウェブ上で行われる。利害関係が一致しているとはいえ、カネを持ち逃げされるのが怖い黒幕は、JPドラゴン以下の実行グループとは別に、カネ回収屋をリクルートしている。回収屋から送られてきた違法な収益は暗号通貨に変えられ、ダークウェブ上でJPドラゴンたちに再分配される仕組みだ」 真の黒幕については日本の暴力団組織や半グレグループであるといった情報もあるが、未だ明らかになってはいない。 そんななか、前出の元マニラ警察のガルシア氏ら捜査関係者の間では、こんな驚きの人物の名前も挙がっているという。 後編記事『2025年、闇バイト事件は凶悪化する…黒幕を知る人物が話した「驚愕の事実」』に続く。 「週刊現代」2024年12月7・14日合併号より
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