インテルの失速とNVIDIAの躍進
かつて半導体業界を牽引してきた米インテルが、苦境に立たされている。 インテルが発表した2024年第3四半期の決算によると、同社の売上高は133億ドルと前年同期比で6%減少した。売上総利益率は15%と前年同期比で27.5%も下落。特筆すべきは莫大な純損失である。同社の24年第3四半期の純損失は、なんと166億ドルと売上高以上の赤字に転落している。その背景は、リストラ費用や製造資産の減損、そしてAI市場での競争力不足が原因と指摘されているのだ。業績低迷を受け、今月1日付けでパット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)が退任。翌日の米株式市場でインテルの株価は、皮肉にも一時6%近く上昇した。 【一覧を見る】運用資産1億円の投資家が保有する115銘柄を一挙公開…! そんなインテルの苦境を象徴する出来事が、米国の代表的な株価指数である「NYダウ指数」から除外されたことだろう。NYダウ指数へ新たに採用されたのは、AI分野でライバルとなるNVIDIA(エヌビディア)だった。「インテル もう入ってない。代わりにNVIDIAが入ってる」、著名企業の指数除外は、時代の移り変わりを象徴するとして、国内外でも大きな話題を呼んだ。 NVIDIAは2021年にリリースされたChatGPTがもたらしたAI革命の波に乗り、時価総額で名だたる米国のテック巨人をごぼう抜きした。現在のNVIDIAの時価総額は3.3兆ドルに達しており、GoogleやAmazon、Microsoftを時価総額ですでに抜き去っている。頭上には、Appleただ一社のみ。NVIDIAは現在、世界時価総額ランキング第2位のポジションについているのだ。 一方でインテルのランキングは執筆時点で100位前後。時価総額は約1100億ドルとなっており、NVIDIAとの差は30倍以上にも開いている。 実は、この両社の対照的な状況は、一朝一夕で生まれたものではない。 振り返れば、明暗を分ける兆候は約10年前から現れていた。今回は、インテルの失速とNVIDIAの躍進、その要因について掘り下げていこう。
不調の前兆は2010年ごろから出ていた?
インテルが転落する兆しを見せたのは、2010年代中盤のことだ。当時、インテルは依然としてパソコン用CPU市場で圧倒的なシェアを誇っていたが、テクノロジー業界全体ではこの時点で「クラウド時代」や「AI時代」へ移行し始めていた。これに対し、インテルは依然として顧客の支持が厚かった「PC用プロセッサ」や「サーバー向けCPU」という伝統的な製品群に依存し続けていた。 特に問題となったのが、14nmおよび10nmプロセスの開発遅延である。半導体業界では、製造プロセスを微細化し性能を向上させることが競争力の鍵となる。しかし、インテルは10nmプロセスの量産に苦しみ、市場投入が大幅に遅れた。この間にAMDやAppleのような企業が台頭し、競争力が削がれる結果となった。 さらに、2010年代後半には、データセンターやAI向けの特殊用途プロセッサ(GPUや専用チップ)の需要が急増。インテルはこうした新市場に対して積極的な投資を行わず、変化の波を捉えられなかった。一方、NVIDIAはこの時期、すでにGPUのAI用途での可能性を見抜き、市場シェアを拡大し始めていた。
ニッチ枠「NVIDIA」の隆盛、実は運も良かった?
インテルが足踏みしている間に、NVIDIAは着実に未来を見据えた戦略を展開していた。一昔前のNVIDIAはどちらかといえば米国の著名FPSゲームシリーズである「Call of Duty」等で見かけることが多く、ゲーマーの間で知名度が高かったニッチなイメージのある企業であった。 しかし、NVIDIAはGPUの用途をゲーム市場に留めず、AIトレーニングやディープラーニングといった次世代技術への応用に広げていった。この方向性を支えたのが、自社開発のソフトウェアフレームワーク「CUDA」だ。CUDAは研究者やエンジニアがGPUを効率的に活用するための基盤を提供し、NVIDIAの製品が学術機関や企業で採用される機会を増やした。2010年代初頭から中盤にかけて、NVIDIAはさまざまな分野で名前を見かけることが多くなっていった。 2016年以降はAIとディープラーニング市場が急速に成長し、NVIDIAのGPUはその主役となった。この頃にはすでに、インテルが持つ従来型CPUの優位性は次第に薄れ、NVIDIAが新時代の半導体業界を代表する存在として台頭していた。 2016年、2021年に隆盛を極めた暗号資産の業界においてもNVIDIA製のGPUが脚光を浴びていた。暗号資産のマイニングに高度な計算処理能力が求めらたこともあり、暗号資産のブームが発生するたび、NVIDIAのGPUが店頭から消え、中古価格が大幅に高騰するような場面も度々みられた。 たしかに、マイニング用途としてのGPU需要が高まった点については戦略というよりは運や投機の側面が大きかったことも否定できない。しかし、NVIDIAに実力がなければ、今も「マイニングGPU会社」のような立ち位置に落ち着いており、成長も一過性のもので終わっていただろう。 運も味方につけて、足元のAIブームをとらえるための投資を怠らなかった点も、今日のNVIDIAにおける高成長を支えているといって過言ではないだろう。
「インテル、入ってる」の驕り、分かれた明暗の背景
ちょうどこの逆が、インテルの失速の遠因なのではないか。同社は技術的な遅れだけでなく、より根本的な経営判断の失敗もあったとみられている。 同社は、2010年代後半にはAppleやMicrosoftといった主要企業が自社チップの設計に注力し始め、インテル製品への依存度を下げはじめた。これにより、2010年代から「インテル、もう入ってない」PCが増えてくることになった。実は10年前からインテルの伝統的なビジネスモデルには限界が見えつつあったのだ。 一方、NVIDIAのCEOジェンスン・フアンは、先見性と果敢な投資で企業を牽引してきた。彼のリーダーシップの下、NVIDIAはGPUの可能性を最大限に引き出し、AIブームの中心に位置する企業へと成長を遂げた。 技術革新の波に乗れた企業と、停滞した企業。その差は、現在の市場評価に如実に表れているといえるだろう。
「インテル、まだ終わってない」?
しかし、インテルの最新の決算を確認すると再浮上の可能性もみえてくる。 特に注目すべきは、ファウンドリ(半導体受託製造)事業への再参入だろう。これまで自社工場での製造にこだわってきたインテルだが、TSMCやSamsungといった業界大手のように他社製品を受託生産する形で新たな収益源を模索している。これは、これまでインテルが築いてきた製造技術を活用できる可能性を秘めている。 そして、直近の決算でインテルが売上高を超える莫大な損失を計上した要因を深掘りすると、これは、一時的な費用が大部分を占めている「膿出し」型の損失であることがわかる。 同社は2025年までに100億ドルのコスト削減を目指し、組織再編や人員削減を進めており、今第3四半期には28億ドルにものぼるリストラ費用が計上された。 そして、純損失の大部分を占めた「繰延税金資産に対する評価減の計上」や、「製造資産の減損」、「その他の償却費用」についても、これらはあくまで帳簿としての損失にとどまり、現金の出費を伴った損失ではない。したがって、166億ドルという一見莫大な損失は、同社の経営基盤そのものを脅かす性質のものではないのだ。むしろ、これまで溜まっていた潜在的な損失要因を数値として計上し、同社の経営を再構築していく姿勢を示している点を評価すべきである。 インテルには、製造技術やブランド力という大きな資産が残されている。依然として課題が山積していることも事実だが、インテルはAI分野でも巻き返しも試みている。新世代のIntel XeonプロセッサやGaudi 3 AIアクセラレータを投入し、IBMなどのパートナーと協力して市場シェアの拡大も虎視眈々と狙っている。 同社のCMフレーズを皮肉って「インテル、もう入ってない」とイジるのは、確かにキャッチーかもしれない。しかし、必要以上に不調なイメージだけが先行すると、同社の復活の兆しを見逃してしまうリスクがある。 そして、今は順調に見えるNVIDIAも、裏では過剰な期待値の織り込みといったリスク要因も内包していると指摘されはじめている。NVIDIAは製造を外部に委託しているため、TSMCなどの供給網に依存している点はインテルと比べて相対的な弱みでもある。AI需要がピークを迎えた後、成長が鈍化するリスクや、他社の追随による競争激化にも注意が必要だろう。 栄光も転落も、永遠に続くものではない。10年前の選択が現在の明暗を分けたように、今の選択が未来の評価を決める。インテルはもう終わってしまったのか、まだ終わっていないのか。今後のインテルの動向に注目していきたい。
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